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Saturday, April 16, 2005

Matsumura (2005)

Matsumura, M. (2005). Semantics of second language reflexives. Annual Review of English Language Education in Japan, 16, 1-10.

昨日届いたばかりの ARELE 最新号に掲載された、横浜国立大の松村さんの論文。去年の長野の学会で発表を聴きそびれた(事務局の仕事で忙しかったのです)ので、気になっていた研究です。

昨日読んだ Koster (1994) は代名詞の coreference の話でしたが、こちらは再帰代名詞の coreference についての研究です。まずは根本的なところの確認:

(1a) Bettyi knows that Chrisj will talk about herself*i/j.
(1b) Nancyi wants Pattij to introduce herself*i/j.

1a, 1b ともに下線部の再帰代名詞 herself は、同じ節内の名詞(Chris, Patti)を指しますが、節の外にある名詞(Betty, Nancy)を指すことはできません。UG の枠組みでいうところの Principle A による制約です。

この現象について、日本人英語学習者を対象とした研究がこれまでにいくつかありますが、面白い発見として、学習者の中に上の 1a は正しく(つまり再帰代名詞が節外の名詞句は指せないと)解釈できるのに、1b の場合には節外の名詞と corefer させてもよいという解釈をすることがあります。従属節が定形(finite)か不定形(nonfinite/infinitival)かの違いで解釈が分かれるこの現象は、Yuan (1994) 以降 tensed-infinitive asymmetry と呼ばれています。この現象については僕も興味を持っていて、Urano (2001) として発表したりもしてます。

定形節と不定形節の間に見られる解釈について、その原因を言語学的(統語的)なものに求めようとする研究者が多いのですが、本論文では意味的な原因を提案し、検討しています。ここで主張されているのは、従属節が定形のときと不定形のときでは、話者の視点に含まれる主観の度合いが異なるという内容です。具体的には、次の 2a, 2b を見てみましょう。

(2a) I find that this chair is comfortable.
(2b) I find this chair to be comfortable.

定形の従属節を取る 2a と比べて、不定形の従属節を取る 2b の方が、その椅子が comfortable かどうか実際に体験した上での主観に基づいているという主張が採用されています。それに対し、2a の場合従属節の内容(椅子が comfortable であるということ)がよ客観的事実として認識されているとのこと。言われてみればなるほどなと思いますが、母語話者の直観はどうなのでしょうか。

不定形の従属節ではより主観度が強いということで、主節の主語の視点と従属節の内容の距離がより近く、従って従属節に含まれる再帰代名詞が、節外(つまり主節)の名詞を指すといった(母語話者の基準から見れば誤った)解釈を、L2学習者はしうるというのが筆者の主張です。さらに、この主張が正しければ、主観度のより強い従属節であれば、不定形節だけでなく定形節の場合にも、学習者が節外の名詞を再帰代名詞の先行詞として取りうるという仮説を立てて、実験を行っています。

実験は truth-value judgment task を用いています。テスト文は次の5タイプ:

A. George wants the manager to praise himself.
B. John wishes Paul would respect himself.
C. The queen insisted that Susan write about herself.
D. Frank is eager to know if Dave will vote for himself.
E. Helen knows that her mother always sees herself on television.

A についてはいわゆる不定形節を取った文でL2学習者が節外の名詞句を先行詞として解釈する(Long-Distance Binding、LD binding といいます)ことが報告されているタイプで、E はその対極で、定形の従属節であり、学習者が LD binding の可能性を(正しく)否定できるものです。B – D については、従属節が定形であるものの、従属節の内容について主節の主語の主観、願望が強く表されているため、仮説によれば LD binding を容認しやすいタイプです。

実験結果は概ね仮説通り。C のタイプについてはちょっと予想と違ったのですが、ここでは割愛。LD binding は上の全てのタイプで非文法的なのですが、日本人英語学習者の被験者たちの正解(つまり LD binding を否定した)割合は次の通り:

A. 32%
B. 54%
D. 48%
E. 76%

“E > B & D > A” という結果はほぼ仮説通りと言っていいでしょう。被験者は、不定形の従属節を取る A だけでなく、定形の従属節でかつ主観度の強い B, D といった文でも LD binding を容認する割合が高かったということができます。

論文の冒頭からとても明快な論理展開で、先行研究のまとめから新たな視点の提供(仮説構築)、実験、結果報告と、スムーズに流れていて読みやすい論文でした。内容も面白いし、今後どのように進んでいくのか楽しみでもあります。ただ、結論でも述べられている通り、話者の視点とか、主観度といった概念がきちんと定義されていない段階なので、その辺の理論的洗練が必要になるでしょう。

もう一点気になることがあります。筆者の主張どおりなら、従属節が定形、不定形の違いに関わらず、主観度の強さによって LD binding が容認されることになりますから、実験結果の “B & D > A” に対する説明がつかないことです。主観度といった意味的な要因だけでなく、定形、不定形といった統語的な違いが学習者の解釈に影響を与えていると考えてもおかしくない結果であると言えると思います。この結果が、ふたつの要因が絡まりあった結果のものなのか、それとも他の要因によるものなのか、追実験を行ったり、テスト文自体の分析をしたりする必要がありそうです。