Monday, September 12, 2005
Grondin, N., & White, L. (1996). Functional categories in child L2 acquisition of French. Language Acquisition, 5, 1-34.
第二言語学習者の初期の知識が lexical categories のみで構成されるのか、functional categories (DP, IP, CP) も初期段階から存在するのかを扱った研究。第二言語としてフランス語を学習する2人の子供の自然発話データ(Lightbown の博士論文のもの)を分析し、初期の interlanguage grammar に DP, IP, CP が存在することを証明しようとしています。
Grondin & White の主張は、第二言語習得の初期段階から functional categories が存在するというもので、それに反対する主張として Vainikka & Young-Scholten の minimal trees hypothesis が挙げられています。
第二言語習得の初期段階が lexical categories のみによって構成されるのか、それとも functional categories も含まれるのかを調査する方法として、Grondin & White は2人の子供の自然発話データの中から、習得初期の段階でも functional categories が存在すると考えられる証拠を探します。詳細には触れませんが、DP, IP CP についてそれぞれその存在を示す(と著者が主張する)複数の証拠を提示します。たとえば、IP の存在を示す証拠として2人が注目したのは動詞の活用形の使用です。主語と動詞の一致(agreement)は VP ではなくその上の IP で行われるため、1つの動詞について主語の人称・数の違いによって屈折形を変化させていれば、それが IP の存在を意味するといった感じです。
発話データからこのように functional categories の存在を示す発話の具体例とその頻度を提示することで、自分たちの立場を支持する証拠を積み重ねるというのがこの研究のやり方です。いろいろ気になったことはあるのですが、細かいことは説明が煩雑になるので大きな点だけメモしておきます。
How early is early?
この研究が注目しているのは、第二言語習得の初期段階がどのようになっているのかということです。Vainikka & Young-Scholten にしても Grondin & White にしても、習得が進んだ段階で functional categories がきちんと存在し機能するという立場は一緒なわけで(これとは違う主張もありますがここでは割愛)、重要なのは習得の出発地点がどこかということになります。ところが、Grondin & White の示すデータは、習得開始後2ヶ月のものから実に29ヶ月後のものまで含んでいます。2ヶ月というデータに関してはそれほど問題はないのかもしれませんが、たとえばはじめて観察されたデータが9ヶ月のものだったり(Table 8)すると、これを本当に初期段階とか出発点と言い切っていいのかどうか疑問です。著者の主張としては、該当する発話の初出がこのように遅れているものについては、functional categories は存在するものの、それに対応する第二言語(フランス語)の語彙の習得に時間がかかったためだと言っていますが、この空白の数ヶ月間に学習者の頭の中で起こっているのが、個別の語彙の習得なのか、それとも functional categories の習得なのかを決定付ける証拠はありません。
具体的に示されるデータの中には説得力のあるものも含まれているため、全体的な主張にそれほど大きな疑問が生じるわけではありませんが、勢いに任せて勇み足的にデータを利用している感も否めません。実験研究にしてもこのような観察研究にしても、データの扱いやその解釈については慎重でなければいけないなと改めて考えさせられました。特に、自分とは逆の立場を主張する研究者に突っ込みを入れられそうなものには注意が必要ですね。
Tuesday, February 1, 2005
Rizzi, L. (1993/1994). Some notes on linguistic theory and language development: The case of root infinitives. Language Acquisition, 3, 371-393.
この論文の紹介をしようと思っていたのですが、いろいろ考えた結果保留とさせていただきます。ただ、この論文の柱である root infinitive については簡単に紹介しておきます。
下の図は truncation を表したものです。母語習得の初期段階(2歳から3歳の間ぐらい)で、子どもは動詞を屈折させない発話をすることが報告されていますが、これは単に時制及び一致の屈折をし忘れたわけではなく、この時期の子どもにとって、本来 CP から始まるはずの文構造のうち上の方(点線より上)がちょん切られた状態(英語で “truncated”)であるために VP から始まると考えられています。VP より下の構造しかない場合、TP や AgrSP(以前紹介した時はまとめて IP とか InfP と呼んでました)がないために動詞を屈折させる必要がないため、不定形(原形)のまま発話されるという考え方です(これを root infinitive と呼びます)。

この論文を読もうと思ったきっかけは、これまでにここで紹介した論文で root infinitive の話が何度か出てきたから。ポイントとなるのは、第二言語学習者は母語話者と同様に、習得の初期段階で root infitive のステージを経るのかどうかです。詳しくはまた別の機会に。
生成文法系の文献(primary research)を読むのに自分の知識が不十分な点があることを実感したので、今日からしばらく教科書的なものに目を通してみようかと思います。まずは Lydia White の近刊、Second Language Acquisition and Universal Grammar (2003) に手をつける予定です。
Wednesday, January 26, 2005
Eubank, L., Bischof, J., Huffstutler, A., Leek, P., & West, C. (1997). “Tom eats slowly cooked eggs”: Thematic-verb raising in L2 knowledge. Language Acquisition, 6, 171-199.
前回に引き続き、英語の verb raising に関する研究。Verb raising については Ionin & Wexler (2002) のレビューで簡単にまとめたのでそちらに譲ります。
L2 学習者が verb raising や、tense/agreement inflection がうまく操作できない原因として、functional categories が欠損している(もしくは何らかの障害を受けている)とする考え方と、functional categories 自体は存在するけれども、言語特有の屈折方法(英語なら -s とか -ed とか)をマスターできていないのだとする考え(Missing Surface Inflection Hypothesis: MSIH)の2つがあります。これまでは後者を支持する研究をいくつか見てきましたが、Eubank は Meisel と並び前者の立場を主張する研究者です。
今回はいきなり実験内容を見てみましょう。Eubank et al. が用いている truth-value judgment task とは、まず文脈を与えておいて、その後提示されるテスト文が文脈とマッチしているか否かを問う形式の課題です。具体的には次のようです:
文脈: Tom leaves to draw pictures of monkeys in the zoo. Tom likes his pictures to be perfect, so he always draws them very slowly and cafefully. All the monkeys always jump up and down really fast.
テスト文: Tom draws slowly jumping monkeys. [True/False]
テスト文ですが、動詞 draw(s) と副詞 slowly の位置関係に注目してください。英語では一般動詞の verb raising が認められないため、上の文中の slowly は draw を修飾するのではなく、jumping monkeys を修飾していることになります(イメージ的には下の 1a)。副詞が動詞を修飾するためには、動詞の前に来るか(1b)、文の最後に置くとか(1c)しなければなりません。
(1a) Tom draws [slowly jumping monkeys].
(1b) Tom slowly draws jumping monkeys.
(1c) Tom draws jumping monkyes slowly.
つまり上のテスト文では、英語の規則に則れば False が正解になりますし、実際英語母語話者の被験者による反応はその大半(91%)が False でした。
この実験の被験者は中国語を母語とする大人の英語学習者です。中国語では英語と同様に verb raising が認められないため、母語からの転移があるとすればやはり verb raising は認めないことになります。つまり、母語の規則に則っても、目標言語である英語の規則に則っても verb raising は不可であり、L2 習得の初期段階で転移が働くとすれば、被験者は母語話者と同様テスト文に対して False の反応を示すはずです。ところが実際には、False の反応は全体の 74% で、残りの 26% は True という反応、つまり verb raising を OK とする反応をしています(実は統計処理として、被験者の反応をすべて足してそれに対してχ自乗検定をかけていますが、これはまずいですね)。
個々の被験者のデータも提示されていますが、それを見る限り一貫性は見られず、多くの被験者が、一見ランダムに False と True の反応をしているように見えます(実際は False の方が多いわけですが、いつ True の反応が出るかについて明確なパターンが見られません)。このことから Eubank et al. は被験者の interlanguage grammar では verb raising がオプショナル(つまり OK だったり NG だったり両方の反応がある)であると主張します。Verb raising は言語によって OK か NG かはっきり決まっているわけですから、オプショナルということはつまりそれに関わる functional category(Infl)が欠損もしくはなんらかの障害を受けていると考えられるというのが Eubank et al. の考えです。
MSIH を支持する研究とこの Eubank et al. の研究は、データ収集方法も大きく異なるため、簡単に比較してどちらが正しいとは言いにくいです。Meisel の研究や、他のもう少し理論的な研究にも目を通さないといけないようです。