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Sunday, March 20, 2005

北川・上山 (2004)

北川善久・上山あゆみ. (2004). 『生成文法の考え方(英語学モノグラフシリーズ 2)』 東京: 研究社.

久々の更新です。今回紹介するのは、SLA とはちょっと離れて、生成文法の入門書的なものです。とはいっても生成文法の全容を説明、紹介するような性格ではなく、タイトルが示すとおり、生成文法の根幹にある重要な考え方について、いくつかのキーワードを手がかりにその歴史的変遷をたどる内容になっています。歴史的と書きましたが、実際生成文法の草創期である1950年代から、ミニマリスト・プログラムが全盛の現在までの流れを辿っているので、(「歴史」というには短い期間ではありますが)あながち間違ってないと思います。

章立ては次の通り:

1. 生成文法における「文法」とは
2. 「文」の生成の仕組み
3. 音と意味の分離: PF 表示と LF 表示
4. 「主語」とは
5. 生成文法研究が目指すもの

本書の概略については、著者の一人である九州大の上山先生のサイトに紹介があり、特にプロローグを読んでもらうのが一番わかりやすいと思います。対象とする読者としては、(1) これから言語学を学ぶ人、(2) 生成文法についてある程度知っているけど、全体像をつかみたいという人、(3) 生成文法に詳しいけど、新たな視点を見つけたい人の3グループを想定しているそうですが(僕は (2) ですね)、(1) の読者の多くは面食らってしまうのではないかなぁというのが率直な感想です。もっとも、それは本書の質がどうのこうのというのではなく(むしろとても明快に書かれていて読みやすいと思います)、扱われている現象や考え方そのものがやはりとっつきにくいのかなと思います。初心者については、いきなり本で勉強するのではなく、大学などの講義を通して、口頭で話を聞きながら学んだ上で、本書のような本で知識を補足していくというのが一番よいなと思いました。

僕自身、GB より前の理論についてはほとんど知らないので、そのあたりからの変遷を辿ってくれるこの本はいろいろ勉強になりました。また、いわゆる内主語仮説(Internal Subject Hypothesis)など、SLA の文献を読んでいて当たり前のように出てくる考え方が、はじめにどのようにして出てきたのかなどが丁寧に説明されているのもありがたいところです。ついでに言うなら、生成文法で使われる様々な用語の日本語版を知ることができてよかったです。

というわけで、生成文法の根幹を成す考え方について読みたい方におすすめの一冊です。

Wednesday, February 16, 2005

White (2003)

White, L. (2003). Second language acquisition and Universal Grammar. Cambridge: Cambrdige University Press.

読み終えてからすでに1週間ほど経過してしまいましたが、あらためて。Lydia White は 1989 年にとても似たタイトルの本を出してますが、今回読んだのはその改訂版というわけではなく、言ってみれば続編みたいなもの。前作が出版された後、つまり1990年代から2000年代初めまでに出た研究を概観し、必要があれば批判し、それら1つ1つを SLA 研究の中に位置づけています。Universal Grammar の枠組みに乗った SLA 研究の教科書にちょうどいいと思いますが、全くの入門書というわけではないので、これから UG 系の SLA 研究を勉強しようとする方の最初の一冊というわけにはいかないと思います。高度な知識を必要とするわけではありませんが(だったら僕が読ない)、Government and Binding (GB) についてのある程度の背景知識と、Minimalist Program (MP) についてちょっと聞いたことがあればとりあえず読めるかな。Internal argument, external argument という用語とか、Split Infl Hypothesis とかが説明もなく出てくるので、このレベルの話題についていけないとちょっと辛いかもしれません。

本書は全部で8章構成。各章のタイトルをまず挙げます:

1. Universal Grammar and language acquisition
2. Principles of Universal Grammar in L2 acquisition
3. The initial state
4. Grammar beyond the initial state: parameters and functional categories
5. The transition problem, triggering and input
6. Morphological variability and the morphology/syntax interface
7. Argument structore
8. Ultimate attainment: the nature of the steady state

言語を習得する上で、人間には言語というものに対していくつかのルール(知識)を生まれながらに持っているとする主張があり、この前提を元に母語習得、そして第二言語習得の研究が幅広く行われています。この前提となる生得的な知識を普遍文法(Universal Grammar)と呼び、これに関わる第二言語習得研究を UG 系の SLA 研究と僕は呼んでいます。

母語、第二言語に関わらず、UG 系の習得研究を行う上での大前提に poverty of the stimulus という問題があります。簡単に言えば、言語、特に統語規則の習得に必要な情報が、インプット中には全て含まれていないということであり、従って人間にはインプットの情報を補う言語の「核の部分」に関する知識(=普遍文法)を生まれながらに持っているとするのが UG 系の習得研究の大前提となります。White (2003) では、まず第1章でこの poverty of the stimulus について例を挙げながら説明し、続く第2章ではこの論点を第二言語習得にまで拡大しています。

残りの章では、第二言語習得におけるいくつかの重要な論点についてそれぞれ整理しています。第3章では initial state、つまり第二言語習得の出発点はどこにあるかという話。母語の規則体系を第二言語に当てはめるところから始まるという考え(Full Transfer)や、母語習得と同様パラメターの設定がされる前の状態から始まるという考え(No Transfer)などの主な提案が、実証研究と絡めて紹介されています。

第4章ではその後の段階の話。パラメターの再設定ができるのかどうか、functional categories は第二言語習得でも機能しているのかなど、以前は UG Access という枠組みで検討された問題を再整理しています。

第5章では、UG 系の習得研究に足りないとされている transition theory について。Kevin Gregg (1996) などの批判が有名ですが、UG 系の研究はあくまで学習者(話者)の持つ知識を扱った property theory であり、習得プロセスそのものを扱った transition theory の要素を欠いているという問題について検討されています。ここで White は、インプット中のどのような要素が習得(例えばパラメターの再設定)のきっかけとなりうるかを論理的に議論していますが、残念ながらこの章に関しては実証研究の引用はほぼゼロ。Gregg の批判が全うなものであるということをはからずも認める形になってると思いました。実証的に扱うのが難しい問題を多く含んでいますが、心理言語学的な研究者と協力して、今後調査していくべき分野ということでしょう。

第6章は形態素と統語の関係について。僕が最も興味を持っている分野の1つですが、僕がここで紹介した Lardiere (1998b) のように、言語習得がかなり進んだ段階でも形態素の使用が正確でない問題についての議論です。Functional categories 自体に問題があるとする考えと、functional categories 自体は問題なく、表面的な形態素の使用に問題があるとする考えを比較し、実証研究の分析に基づいて後者に軍配が上がるとしています。

第7章は、90年代以降に研究が盛んになった argument structure の話。有名なところでは、”Mary pushed the book to John.” はOKでも、”*Mary pushed John the book.” はダメといった例がありますが、Pinker (1989) を出発点にした、統語と意味論の関係を扱った習得研究の紹介です。

第8章は ultimate attainment の話。第3章で初期段階の話をした上で、では第二言語習得の最終段階はどうなる(なりうる)のかについての議論です。Lardiere (1998b) の被験者 Patty の例などを元に、いわゆる fossilization, stabilization などについて UG の枠組みで検討しています。

こういう本だったら、この後に全体をまとめる章があってもいいと思うのですが、第8章の最後にさらっとした conclusion があるだけなのはちょっと残念。読み終えた後でもう一度全体像に立ち返って、理解や意見を整理したいところですが、その手がかりがあったらさらにいいんじゃないかと思いました。

以下感想。この分野の第一人者のまとめた本ということもあり、主だった問題や関連研究を網羅し、1つ1つを単純に並べるだけでなく、分類、整理してある点はとてもいいです。僕なんかも、引用されている論文の多くをこれまでに読んでいましたが、もう1段上の階層で見つめなおすいい機会になりました。また、先行研究については理論的問題や実験上の問題点を厳しく批判しているのも、単なる論文紹介でない高いクオリティのレビューになっています。逆に言えば、手続き上かなり問題のあるような論文まで紹介しなければならないということで、つまりまだまだ発展途上の研究分野であるとも言えます。まだまだやるべきことが多く残っているというのは、僕ら研究者にとってはよいニュースです。特にデータ収集レベルで問題のある研究が多いことから、これからの研究では理論的な部分だけでなく、データ収集法についてもきちんと検討していく必要があるでしょう。

この本は、UG 系の第二言語習得研究を、著者である Lydia White が自分の主張を交えながら分類、紹介したものです。彼女自身は、functional categories については Full Transfer Full Access を信じ、形態素レベルの問題は Missing Surface Inflection Hypothesis の立場を取っていると考えられますが、そうでない立場の研究者がこの本を読んだときどのような反応を示すのか興味があります。僕の指導教官は White にかなり近い立場だから、僕が読んでいてもある意味スムーズに読み進められましたが、例えば Eubank とか Meisel のような立場を取る人たちの反論を聞きたいところです。

最後にもう1つ。最初に書いたように、UG 系の言語習得研究は、母語にしろ第二言語にしろ、poverty of the stimulus 問題を出発点にしています。学習者の持つ統語知識を分析してみると、インプットを元にしただけでは説明できない部分があり、だからこそ生得的な知識(UG)を持っていると仮定するのが自然であるという論法なわけで、本書でも冒頭の第1章、第2章でその点についてきちんと土台を固めているわけです。ところが、第3章以降で扱われている言語項目を見ていくと、厳密に言えば poverty of the stimulus 問題の成立していないものも少なからず含まれているように思います。「UG が存在すると仮定すればこのような説明が成り立つ」という論理展開自体に筋が通っていたとしても、インプットに含まれる情報だけで同じ結果に説明がつく場合もありうるのではないかと思いました。具体的なものは忘れてしまったので申し訳ないですが、今後 UG 系の研究を読むときには、この点頭に入れておいても損はないなと感じました。

Wednesday, January 26, 2005

白井 (2004)

白井恭弘. (2004). 『外国語学習に成功する人、しない人: 第二言語習得論への招待』 東京: 岩波書店.

昨年の秋から冬にかけて、日本語で書かれた SLA の入門書(というか一般書というか)が2冊続けて出版されました。今日紹介するのはその一冊。

著者の白井先生はコーネル大学で教鞭を取られています。日本人の SLA 研究者で、おそらく日本国外では一番有名な方ではないでしょうか。特にテンス・アスペクト研究では第一人者といってもよく、子どもの言語習得など幅広い分野に詳しい方でもあります。

「岩波科学ライブラリー」のちょうど100冊目にあたるこの本は、資料を入れても総ページ数が120ページほど。普通に読めば1日か2日で一気に読み終えることができるのである種の爽快感があります。章立ては5つで、次のようになっています:

1. 日本人はなぜ英語が下手なのか ― その1 動機づけ
2. 日本人はなぜ英語が下手なのか ― その2 母語の影響
3. 外国語学習に成功する人、しない人
4. 外国語が身につくとはどういうことか
5. どんな学習法なら効果があがるのか

詳しい内容については、僕がここで紹介するよりぜひ手にとって読んでいただきたいので割愛しますが、単著ということもあって全体のトーンにも一貫性があり、また章同士のつながりもスムーズです。一般の読者にも実感の持ちやすい動機づけから話をはじめ、広い意味での SLA 研究の入門書に必要と思われる主な内容を丁寧にカバーしている印象を受けました。

この本を読んでみてまず思ったのは、とてもバランスの取れた内容だなということでした。外国語習得に関する書物や講演などでは、あることないことを大胆にぶちまけ、「おいおい根拠あるのかよ」と突っ込みを入れたくなるような「トンデモ系」と、その逆に SLA 研究はまだまだ発展途上であり、外国語習得の道筋は○○であると断定するには時期尚早であるといって、結局は何も言わない「慎重系」のどちらかになることが多いのですが、白井先生の書き方は、(時に大胆かなと思えるほどの主張もありますが)「今のところまだ断定はできませんが、これまでの研究を全体的に見ると○○のようです」と、ある意味「答え」を出しつつも、それが決して行き過ぎることなく、なんというか落とし所の見極めがとても上手なんです。僕なんかは「慎重系」というか「臆病系」な方ですが、理論やこれまでの研究に基づきつつもいわゆる big picture を語ることができるようになりたいなと考えていますし、そういう意味でとても参考になりました。

SLA を研究する人が、これを読んですぐに何か研究へのアイディアを思いつくといった類の本ではありませんが、SLA や外国語教育に携わる若い研究者や学生さんが読むにはちょうど良いですし(良い意味で SLA の「ガイドブック」になるのでは)、SLA を研究しているわけじゃないけど、外国語を身につけ(ようとし)た経験のある方なら誰にでも楽しく読んでもらえる本だと思います。

SLA 関連の日本語の書籍にはいろんな点で不満を感じることが多いのですが、そんな中久しぶりにいい本が出たなと思います。

追記: この本のカバーに岩波科学ライブラリーの紹介文がありましたが、まさにこの本は相応しいと感じました。というわけで紹介します:

・ 現代科学の最もホットな話題を、気鋭の研究者がやさしく明快に語ります。
・ 何がわかったのか、何を意味するのか、これからどうなるのかを、わかりやすく説き明かします。
・ 人間や社会と科学との関わりを根本から考えます。
・ 理解を助けるイラストをたくさん入れました。
・ 科学の最新の動向に関心をもつ人、知的エンターテイメントとして科学を楽しみたい人に最適!

うーん、納得!