Monday, April 13, 2009
Franceschina (2002)
Franceschina, F. (2002). Case and φ-feature agreement in advanced L2 Spanish grammars. EuroSLA Yearbook, 2, 71-86.
更新を一回飛ばしたにも関わらずさらに数日遅れとなってしまいました。やはり年度初めのこの時期はいろいろ忙しくて、じっくり論文を読んだり研究のことを考えたりする時間が取れませんね。
さて本題です。今日紹介する論文は、いわゆる Representational Deficit Hypothesis (RDH; IRH とも言います) を支持する研究です。RDH の出発点と言ってもいい Hawkins & Chan (1997) の Failed Functional Features Hypothesis (FFFH) は、母語に存在しない素性は L2 では獲得できないといった主張をしています。この仮説が正しいかを調べるため、 Franceschina は(良い意味で)とてもシンプルなデザインを考えました。簡単に言うと、ある特定の素性について、それが存在する言語の母語話者と存在しない言語の母語話者を対象にして、その人たちの同じ L2(件の素性を持つ言語)の知識を調べることで、FFFH を検証しました。
今回対象になった素性はスペイン語の性(gender)。いわゆるφ素性の1つで、数(number)や人称(person)と一緒に代名詞の活用などに姿を見せます。ヨーロッパの言語には gender 素性を持つものも多く、この研究ではフランス語、ドイツ語、ギリシャ語、イタリア語の母語話者が [+gen] グループに採用されています。一方 gender 素性を持たない言語のグループでは、英語母語話者が実験に参加しています。FFFH は素性の獲得可否に関わる仮説であるため、能力の高い学習者を対象に、習得の endstate がどうであるかを調べようとしています。
大まかな予測としては、[+gen] グループの被験者は、(母語からの転移で)スペイン語の gender 素性を問題なく扱えるのに対して、[-gen] グループである英語母語話者は、母語に gender 素性がないためスペイン語の gender 素性の知識を正しく活用できないということになります。この仮説を検証するため、Franceschina は production と comprehension の2つの実験を行っています。被験者は [+gen] グループ25名、[-gen] グループ15名、それにスペイン語母語話者の統制群25名。実験群は、スペイン語の proficiency test の結果が統制群の母語話者と同じ範囲に入っており、このことから endstate を対象にしていると考えられています。
実験1は、空欄に適切な代名詞を入れる課題。論文には書かれていませんが written task だと思われます。被験者は、文脈を見て、数(単数 or 複数)・格(accusative or dative)・性(masc, fem, or neut)を正しく活用した代名詞を記入します。全体的な正答率は、統制群が 89.00% で、[+gen] 群が 87.24、[-gen] 群が 84.53%。Franceschina は3群間に差はないと言っていますが、検定を行っていません。グループ間の差と標準偏差(1.2~3.4)を考えると意味のある差であるように思われますが、なぜ検定を行わなかったかはわかりません(他の分析では検定を使っているのでなおさら疑問です)。
続いて、上記実験で出てきた全ての間違いをタイプ別に分類しています。gender の誤りだけに注目すると、統制群全体で2つ、[+gen] 群で1つ、[-gen] 群で11の誤りがありました。被験者数が同じではないし、本当は一人当たりの平均値を出してそれを比較するのが筋ですが、それを別にすれば、[-gen] 群に多くの誤りが見られたというのは予測通りということになります。
実験2は comprehension task。代名詞1つを含む文を読み(同時に音声も流れる)、その後3つの単語を見て、代名詞が何を指すのかを当てる課題です。代名詞が男性形だったとしたら、選択肢のうち2つは女性名詞で1つが男性名詞なので、正解は1つという設定になっています。
16点満点の実験結果は、統制群が14.69、[+gen] 群が 13.83、[-gen 群が 12.20。分散分析と事後検定の結果、統制群と [-gen] 群の間が有意で、[+gen] 群と [-gen] 群の間が p=.06。最後の比較については厳密に言えば有意ではありませんが、概ね予測通りの結果だと言えるでしょうか。
以上の結果について、Franceschina は、[-gen] の母語話者にとって gender 素性が persistent problem であるのに対し、[+gen] 言語話者は gender 素性の知識には問題がなさそうだと結論づけています。これはつまり FFFH が支持されたということになります。
以下コメント。機能範疇(functional categories)のレベルではなくさらに細かい素性(features)のレベルでの分析を行っている点で興味深い研究だと思います。僕も人称や数といったφ素性の習得について調べたいと思っているので、そういう意味でも関係のある論文だと言えます。ただ、2つほど疑問に感じている点があるのでそれを記しておきます。
まずは、何を持って problem であるとするかについて。FFFH を厳密に解釈すれば、L1 にない素性に関する知識は L2 では獲得できないことになり、だとすると上記 [-gen] 群の被験者は gender に関してはランダムに使ってしまう可能性が考えられます。ところが実際には、母語話者や [+gen] 群よりは低いといっても正答率としてはかなり高いんです。実験1について言えば、一人18のテスト文×15人=270文のうち gender の誤りは11個ということになると思うので、正答率に直せば 96% だし、実験2についても 12.2/16=76% の正答率です。母語話者より(そして [+gen] 群より)劣るのは事実だとしても、 gender 素性に関する知識の獲得なしに、どうしてこれだけ正しい解答ができるのかについての答えが必要になります。
もう一点は gender 素性の特有性について。たとえば number 素性や person 素性と比べ、gender 素性は個別の語彙項目により密接に結びついています。平たく言えば、一つ一つの名詞を学ぶ際に学習者はそれが男性名詞なのか女性名詞なのかを含めて学ばなければいけません。このことが、gender 素性の正しい使用を他の素性(number や person)よりも困難にしている可能性があります。つまり、gender 素性に関わるパフォーマンスが劣るのは、素性そのものの知識の問題(だけ)が原因ではないかもしれないとも考えられるわけです。もっとも、これはただの推測、憶測なので、この点についても何らかの形で調査する必要がありますが。

春のかおり
昨日の残りのシャンパンを飲み終え、いただきもののカナダのアイスワインをチビチビやりながらこれを書いています。今日はとても暖かくて、コートを着ずに仕事に行ったのは今年初…
Posted at 10:10pm, April 13, 2009 by ひとりごと