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Friday, March 27, 2009

Guella, Deprez, & Sleeman (2008)

Guella, H., Déprez, V., & Sleeman, P. (2008). Article choice parameters in L2. In R. Slabakova, J. Rothman, P. Kempchinsky, & E. Gavruseva (Eds.), Proceedings of the 9th Generative Approaches to Second Language Acquisition Conference (GASLA 2007), (pp. 57-69). Somerville, MA: Cascadilla Proceedings Project.

出張で東京に来ています。というわけで新宿にあるホテルの部屋からの更新です。今回紹介する論文も先週と同じく冠詞の習得に関する研究です。冠詞のない日本語母語話者にとって、外国語で冠詞を正しく使うのはなかなか大変なタスクです。英語の a と the の使い分けって難しいですよね。そんなことを考えながら読みました。

世界の言語を見ていくと、冠詞という形態素がどのような意味を表しているかで2つのタイプに分類できるそうです。1つは definiteness(定性)、もう1つは specificity(特定性)。日本語にしてみるとますますわかりにくくなるので、英語を例にとって確認します。ちなみに英語の冠詞は definiteness を表しています。次の4つの文(すべて Guella, Déprez, & Sleeman, 2008, から転載)を見てみましょう。最初の2つは定冠詞 the が使われる例です:

1. Chris: Well, I’ve bought everything that I wanted.  Are you ready to go?
Mike: Almost.  Can you please wait for a few minutes?  I want to talk to the owner of this bookstore.  She is my old friend. [+Definite, + Specific]

2. Sales clerk: May I help you, sir?
Customer: Yes! I’m very angry.  I bought some meat from this store, but it is completely spoiled!  I want to talk to the owner of this store.  I don’t know who he is, but I want to see him right now! [+Definite, -Specific]

1に出てくる owner は、他の店ではなくこの店のオーナーで、しかも話者はその人が誰だかを知っています。一方4の owner は、やはりこの店のオーナーということは決まっていますが、話者はその人と面識がないためなんという人かまで特定はされていません。そういう意味で1は definite で specific、2は definite だけど specific でない、ということになります。今度は不定冠詞 a が使われる例:

3. A man just proposed to me in the orangery (though I’m much too embarrassed to tell you who it was). [-Definite, +Specific]

4. A man is in the women’s bathroom (but I haven’t dared to go there to see who it is). [-Definite, - Specific]

両方とも下線部の名詞 man には不定冠詞の a がついています。ところが、上の文では、この文の話者に対してプロポーズをしてきた(特定の)男性がいるわけです。つまりこの文に出てくる man というのはある特定のひとりの男性を指しています。一方下の文では、誰か男の人が女子トイレにいるわけですが、それがどこの誰だかはわかっていません。つまりこちらの man は特定されていないわけです。

上の4つの例を見てわかるのは、英語の定冠詞(the)、不定冠詞(a)の区別は、その名詞が特定化されているか(人でいえばどこの誰だかわかっているか)どうかではなく、聞き手と話し手双方にとって誰のことを話しているのかわかっているかどうかによって決まるということです。3と4の文では、聞き手は “man” について知るべき手がかりがないから不定冠詞が使われているのに対し、1と2ではある特定の店のオーナーということで(名前を知っているかいないかではなく)ひとりの人物に限定されるので定冠詞が使われているというわけです。頭で理解していても言葉で説明するのはとても難しいですね。

日本人学習者が英語の冠詞を習得できないのは、a と the の区別を definiteness ではなく specificity を使って行っていると考えられるそうです(Snape, 2005)。そうすると問題になるのは、definiteness と specificity が逆になる上でいうと2と3の場合で、実際冠詞の誤用もこの2つのパターンで多く見られるようです。日本人が英語を学ぶとき、まずは (a) 英語に冠詞というものがあることを学ぶ必要があり、その上でさらに (b) 定冠詞と不定冠詞の区別に specificity を使わないことと、その逆に (c) definiteness を使うことを学ばないといけません。以上をまとめると、Snape が調査した日本人英語学習者は a の知識を身につけた後 b の段階で止まっていると考えることができるでしょうか。

やたら前置きが長くなりましたが本題に入ります。Guella, Déprez, & Sleeman (2008) はオランダ語母語話者がアラビア語を習得する際の冠詞の誤りについて調査しています。ここで面白いのは、オランダ語もアラビア語も冠詞を持ち、定冠詞と不定冠詞の区別は英語と同様 definiteness を基準にしている点です。つまり、オランダ語母語話者はアラビア語を学び始める前にすでに必要な冠詞に関わる知識を持ち合わせているということになります。Schwartz & Sprouse (1994, 1996) やその他多くの研究者が主張する Full Access/Full Transfer (FAFT) という仮説を当てはめれば、オランダ語話者はアラビア語を習得する初期の段階から母語の規則を転移(transfer)させることでアラビア語の冠詞を正しく使えると予想できます。ところが実験結果を見るとそうはなってないんです。

対象者は240時間ほどの授業を受けた11人のオランダ語を母語とするアラビア語学習者。実験は forced-choice elicitation task。文脈を見て、空白にふさわしい冠詞を入れる(というかアラビア語の場合定冠詞は él で不定冠詞は ∅、つまり存在しません。ということは定冠詞を入れるべき時に él と入れて、不定冠詞がふさわしい時には何も入れないのが正解となります。[±specific] x [±definite] で4つの条件ができますが、それぞれの正答率を見てみましょう。

+specific, +definite: 90.9%
+specific, -definite: 36.4%
-specific, +definite: 36.4%
-specific, -denifinte: 81.2%

このように、speficity と definiteness でプラスマイナスが逆になる時に誤用が多くなりました。言い換えれば被験者たちはアラビア語の定冠詞・不定冠詞の区別を definiteness ではなく specificity と基準に行っているように見えるわけです。アラビア語もオランダ語も definiteness を用いているわけなので、この被験者たちは母語とも L2 とも違う specificity という基準を(わざわざ)使っていることになり、これは Full Transfer 仮説の反証とも言えます。

なぜこのような結果になったかについて、著者は “specificity distinctions are somehow more basic than definiteness ones” (p. 68) と言っています。類型学(typology)的に言えば前者が無標(unmarked)で後者が有標(marked)ということになるでしょうか。この仮説が正しいとすると、日本人英語学習者が definiteness より先に specificity を手がかりに冠詞の定・不定の区別を(誤って)行うのも同じ現象だと考えられるかもしれません。

ただ、冠詞の習得については、これとは逆の結果を示す研究もあるようなので、結論を出すのにもう少し慎重になる必要がありそうです。僕も冠詞習得の研究については詳しくないので、今後もう少し多くの研究を見てみようと思います。

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昨日は入っていた2つの会議でいっぱいいっぱい。2時に始まり2つ目の会議が終わったのは7時半。結局パワーポイントは家に…

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