Monday, December 13, 2004
Lardiere (1998a)
Lardiere, D. (1998). Case and tense in the ‘fossilized’ steady state. Second Language Research, 14, 1-26.
3回連続で Lardiere の論文になりました。特に意図しているわけではないですが、やはり似たようなトピックを拾っていくと自然とこうなります。ちなみに、Lardiere はこの年 SLR に2度論文を載せているので、先に掲載されたこちらを 1998a、前回読んだ方を 1998b と表記することにしました。
さて本題です。タイトルからもわかるように Lardiere (1998b) と同じ被験者 Patty の同じデータを別の角度から分析した研究です。もっとも、こちらの方が先に発表されているため、被験者やデータ収集の背景情報はこちらの論文に詳しく記述されています。
90年代の(生成文法の枠組みの)第二言語習得研究では、Vainikka & Young-Scholten (1994) のように、習得の初期段階では、lexical category projections (Minimal Trees) しか存在せず(つまり L1 からの functional categories は転移しない)、習得が進むにつれて VP、AgrP と階層の高い projection を1つずつ獲得していくという Weak Continuity (Minimal Tree) Hypothesis が検討されました。これらの主張を支える実証的なデータとしては、例えば AgrP が(まだ)存在しないことを示すのに、表出データの中で agreement を示す形態素(英語なら 3sg -s)が正確に使えていないことを挙げています。もう少し具体的な話をすると、ある被験者の発話データ中、3sg -s を使わなければならない状況(obligatory context)で実際に -s を正確に付けられていない場合(Vainikka & Young-Scholten では 60% が基準)、その被験者の interlanguage にはまだ AgrP projection の知識が含まれていないと結論付けます。
Lardiere の主な主張は、上のような論理展開には問題があるとするもの。さらに言うと、形態素が正確に使用できないことが、それに関連する functional category の知識を持たないことには必ずしもならないと言っています。そういう意味では、Lardiere (1998b) も大枠では同じことを言ってますし、ここで紹介した他の関連論文(Lardiere & Schwartz, 1997; Prévost & White, 2000)とも同一路線と考えて良さそうです。
さて、今回の論文での調査対象は functional category の1つ T(ense)。T には [+/- finite] という特性があり、この値によって時制を現す形態素(英語では過去の -ed)が付くか付かないかが決まる他に、名詞の格(主格、目的格)が決まります。まずは -ed の方の例を。下の (1a), (1b) の下線部 call(ed) ですが、(1a) は [+finite] の文脈なので過去の -ed が付き、(1b) は [-finite] (つまり不定詞)なので過去のことであっても -ed は付きません。
(1a) He called me last night.
(1b) I asked him to call me last night.
次に名詞の格について。次の2つの例文ですが、動詞 call の動作主(agent)は両方とも he/him になります。ところが、動詞 call が [+finite] である (2a) では主格の he を使うのに対し、[-finite] である (2b) では目的格の him が使われます。生成文法的に言えば、”features which check Case appear in T0 or V0 (for nominative and accusative case-checking respectively” (p. 10) となります。これに関しては、英語の場合一般名詞には格が明確に表されないのと、you の場合主格と目的格が同じ形なので、調査としては you 以外の代名詞を扱うことになります。
(2a) He called me last night.
(2b) I made [him call me last night].
それではデータ分析の方に進みます。被験者 Patty については、Lardiere (1998b) の紹介にゆずります。本研究では、Lardiere はまず動詞の過去形の使用(規則形 -ed の他に不規則形の使用も含みます)を調査します。Obligatory contexts での正確な使用は、3度の録音データすべてでおよそ 34%。Vainikka & Young-Scholten や他の研究者の基準でいうと、Patty の interlanguage には T に関する知識が存在しないとなります。
ところが、(主)格の case assignment を調べてみると、[+ finite] の文脈(上の 2a の例)では 100% の正確さで代名詞の主格が用いられています。また、(2b) のような [-finite] の例でも今度は正確に目的格が使用されています。このことは [+/- finite] という特性を持つ functional category (T) が interlanguage 中に存在することを示していると考えられます。
このように、同じ T に関するデータで逆の結論が出ていることがわかります。Lardiere の主張は、(時制や人称を表す)形態素が正確に表出されるかどうかは、関連する functional category の知識の存在を直接示すことにはならないというものです。つまり、過去を表す形態素が正確に使えていないケースでも、知識として functional category T ([+/- finite]) を持っている学習者が存在することをこの研究では実証したわけです。
これが何を意味するのかについては、Lardiere の他の論文と同様、functional category の知識の欠如ではなく、それを言語化する時に正しい form (形態素)を使えないことがあるという mapping problem であると主張しています。ちょっと乱暴に言い換えると、「過去を表すべきってことはわかっていても、それを表すのに必要な -ed という形態素を毎回きちんと使えない」という状態にあるということです。このように考えれば、VP や TP よりも階層の高い functional categories (例えば CP)を含んだ発話ができる被験者が、過去形や 3sg の形態素をきちんと付けられないことがあるという説明が一応つきます。実際 Patty の発話にも、下の (3) の様に明らかに CP を含むと考えられるものが多く含まれています(しかもこの例の場合 3sg -s が正確に使えていません)。
(3) he have the, inspiration to say what he want to say
第二言語使用者である僕自身の英語を考えてみても、いまだに 3sg -s を正確に使えないことを思うだけで興味深い話題です。英語に初めて触れてからほぼ20年、その間に英語圏で5年半を過ごしたわけですが、それでも -s を付け忘れるのはどうしてなのでしょう。Lardiere による説明が正しいとして、この mapping problem は学習者誰にでも起きる現象なのか、またこの問題を完璧に克服できる L2 学習者が存在するのか、そしてもし存在するとしたら、そのような成功者とそれ以外とを隔てる違いは何なのか、興味は尽きません。

[...] うに屈折に関わるの知識が欠けているとすれば、同じく見られるはずの語順や(主格や目的格といった)格の割り当てのような統語処理に関する誤りは見られない(Lardiere の研究など)。 [...]
Posted at 01:08am, January 23, 2009 by リサーチノート » Blog Archive » McCarthy (2008)