Friday, February 27, 2009
Lardiere (2007)
Lardiere, D. (2007). Acquiring (or assembling) functional categories in second language acquisition. In A. Belikova, L. Meroni, & M. Umeda (Eds.), Proceedings of the 2nd conferenec on Generative Approaches to Language Acquisition North America (GALANA) (pp. 233-244). Somerville, MA: Cascadilla Proceedings Project.
今週も1日遅れの更新でどうもすみません。
今回紹介するのは実証研究ではなく、シンポジウムの原稿をもとにまとめた論文です。著者の Donna Lardiere は、中国語母語話者の英語学習者 Patty を対象にした一連の通時的研究で有名なジョージタウン大学の先生。先週紹介した L. White と同様 MSIH の支持する研究者のひとりです。ただ、この論文はこれまでの研究とはちょっと内容が異なります。ひとことで言えば、UG ベースの SLA 研究が今後どういう方向性に向かっていくのか(もしくは向かっていくべきか)についてひとつの提案をしているとも言えると思います。
タイトルにも出てきますが、UG 系の SLA 研究では、ここ10年ほどは機能範疇(functional categories)の習得が主な焦点になってきました。別な言い方をすれば、L2 学習者の文法(interlanguage)に、CP、InfP、DP といった機能範疇が存在するかしないのかといった形で議論されることが中心でした。ただ、SLA 研究者がよりどころにしている UG 系の言語学理論もその間変化しており、機能範疇よりもさらに細分化された要素である素性(person, number など)が議論の焦点になってきています。実際このリサーチペーパーで取り上げている SLA 研究の多くも、機能範疇というよりは個々の素性の習得を扱っています。
Lardiere は、まずこのように SLA 研究が機能範疇の習得から素性の習得へとよりミクロな方向に向かっていることを指摘し、このことで研究者はこれまでとは違った視点で第二言語習得をとらえなければならないと主張しています。具体的に3つの例を挙げながらこの点について詳しく説明していますが、ここではそのひとつを紹介します。
SLA 研究者がよく扱う素性のひとつに [±past] という時制に関わる素性があります。英語でいえば、”The cow jumped over the moon.” のように動詞に -ed を付けることで [+past] であることを表すわけですが、この [past] 素性は言語によって異なる動きをします。英語ではこの素性は IP(というか TP)の中で動詞にくっつく形で存在するわけですが、たとえばアイルランド語では [past] 素性は同市では補文マーカー(complementizers)にくっつきます(つまり [past] 素性は CP 内にあります)。孫引きになりますが、次の例文を:
Deir sé gurL thuig sé an scéal
says he that.past understood he the story
‘He says that he understood the story.’ (p. 236)
このように、アイルランド語では、従属節の時制が過去であることを、動詞ではなく説を導く補文マーカー(英語の that)を [+past] に屈折させることで示すそうです。このことが、SLA 研究の中でどういう意味を持つのでしょうか。
第二言語習得、特に統語や形態素の習得を、[past] のような素性の習得の積み重ねであると考えると、英語を母語とするアイルランド語学習者にとって、L2 に存在する [past] 素性はL1 にも存在するわけだから、L1 の素性をそのまま転移させることができるために習得は容易であると言うことができます。ところが実際には、英語母語話者は [past] 素性をそのままアイルランド語に当てはめるわけにはいきません。アイルランド語では [past] 素性が補文マーカーを屈折する形で表すこと(つまり [past] が TP ではなく CP に関わる素性であること)を理解しなければならないわけです。このことを Lardiere は assembling functional categories (タイトル参照)と呼び、次のように述べています:
For SLA, … the learner must distinguish and recombine the morphological expression of individual features from the way these are realized in the native language. (p. 237)
このように、SLA 研究は今後個々の素性の習得という議論を踏まえつつ、さらにそれらの素性が個々の言語でどのような形で出現するかについての分析を行い、その習得を分析するという方向に進むことになるだろうと Lardiere はまとめています。
実証研究ではないのでなかなか批評をするのも難しいですが、なるほどなぁと考えさせられる論文でした。僕はここしばらく日本語母語話者の英語の agreement の習得研究をやってますが、その中で主語と動詞の一致に関わる素性として person と number の習得を考えているわけです。たとえば日本語には数の素性([±plural])が存在しないとする研究者が多いと思いますが、それでは「~たち」という日本語の表現は何を表すのだろうか、もう一度考え直してみようと思いました。この論文の中でも、中国語と英語では数素性が異なったふるまいをすることが述べられているので、そのあたりを参考にしてみます。
特に類型学的に遠い言語の習得を扱うとき(日本語と英語もかなり遠い部類だと思います)、この Lardiere の主張(提案)をきちんと考慮することは今後大切になりそうです。

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