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Friday, January 23, 2009

McCarthy (2008)

McCarthy, C. (2008). Morphological variability in the comprehension of agreement: An argument for representation over computation. Second Language Research, 24, 459-486.

今回は手元にあった最近の論文を紹介します。トピック的には、ここでよく扱っている形態素の誤用について、その原因を探る研究の一環です。

第二言語学習者は屈折形態素(inflectional morphology)をよく使い間違えることが知られています。もう少し正確に言うと、全く使えないというわけではなくて、正しく使えるときと正しく使えないときが混在することが多くの研究によって報告されています。このことを英語では morphological variability と呼びますが、その原因は該当する屈折に関する知識(representation)が第二言語学習者には欠けているとする立場(impaired representation hypothesis: IRH とか、McCarthy の呼び方では represenattional account)と、知識には問題がなく、誤用は言語処理の負荷が高くなって屈折処理ができなくなるために起こるとする立場(missing surface inflection hypothesis: MSIH、またはMcCarthy の呼ぶ computational account)があります。

Morphological variability について、McCarthy はこれまでの研究を次の3点に集約しています。

  1. IRH が主張するように屈折に関わるの知識が欠けているとすれば、同じく見られるはずの語順や(主格や目的格といった)格の割り当てのような統語処理に関する誤りは見られない(Lardiere の研究など)。
  2. 間違って屈折させる誤りは少なく、屈折をしそこなうタイプの誤りが中心であること(Prevost & White の研究など)
  3. 上級の学習者にも誤用が見られる。

上記2についてさらに McCarthy は、形態素の関わる文法素性(feature)には有標(marked)なものと無標(unmarked)なものがあり、たとえばスペイン語の性を表す素性では男性が無標、デフォルトであり、女性が有標であるとしています。これはつまり、屈折を「しそこなう」というのは、単に形態素を付け忘れるという意味ではなくて、marked なものを使うべき時に unmarked なものを使ってしまうという誤りも含むとしています。英語の場合だったら、3単現や複数形の -s や、過去形の -ed を正しく付けるか付けそこなうかというシンプルな話ですが、英語以外に目を向けるとなかなか複雑なことになっているようです。

さて、話を本筋に戻します。Morphological variability の原因として IRH と MSIH のどちらが正しいのかという議論について、McCarthy は、MSIH の立場では形態素使用の誤りは知識の問題ではなく言語処理の問題であると考えるため、言語処理の負荷の高い表出課題では誤りが見られても、負荷の低い文理解(聴解や読解)課題では誤りが見られないはずだと主張しています。一方、IRH が正しければ、表出・理解両方のプロセスで誤りが見られるはずです。そこで、同じ被験者に表出課題と文理解課題の両方を課すことで、MSIH と IRH のどちらが正しいかを判断しようというのがこの研究の中心となります。

被験者はスペイン語を学習する英語母語話者。調査対象はスペイン語の性(男性・女性)と数(単数・複数)の一致。具体的には、直接目的語の clitic(接語:英語でいう代名詞っぽいもの)と形容詞の性と数です。まずは性ですが、以下の例のように、接語や形容詞は名詞の性に一致します(例は McCarthy, 2008, p. 470 より)。

Tiene una manzana. Esta comiendola.
Have-3SG an-FEM apple. Is eating-CL-FEM
‘He has an apple. He’s eating it.’ 

manzana が女性名詞なので、その後の接語(CL)も女性形が使われます。

La camisa es blanca.
The-FEM shirt is white-FEM. 

camisa が女性名詞なので、白いという形容詞も男性形(blanco)ではなく女性形(blanca)が使われます。

同様に接語と形容詞は名詞の数とも一致するため、単数形と複数形のうち一致する方が使われます。

表出タスクは、以下の例(p. 471)のようにして接語または形容詞を表出させ、下線部性と数の一致が正しく行われているかを調べています。

実験者
¿Que va a hacer con la manzana?
What going-to do with the-FEM-SG apple?
‘What is he going to do with the apple?’ 

被験者
Va a comerla.
Going-to eat-CL-FEM-SG.
‘He is going to eat it.’

文理解タスクは、疑問文の中に接語を入れ、その接語が何を指すかを3つの絵から1つ(接語の性と数が一致するもの)を選ぶという形式です。実際に使われたものの英語訳だけ載せます:

Paco wants to bring some things that he just bought, but he can’t find anything. Paco says, ‘I just bought it-MASC: Where is it?’

‘it’ に該当する接語がここでは男性・単数という形をしているため、3つの絵の中から男性名詞で単数のものを選べば正解で、女性名詞で単数のものを選べば数は一致しているものの性が一致していない誤りといった感じです。

前置きがだいぶ長くなりましたが、実験結果を簡単にまとめると、次の通りです:

  • 表出タスクでは、接語・形容詞ともに数の一致より性の一致の方が誤りが多かった。
  • 数の一致も性の一致も、unmarked な方(性では男性、数では単数)よりも marked な方(女性、複数)が誤りが多かった。
  • 文理解タスクでも、表出タスクと同様の傾向であった(ただし数の方はほとんど誤りが見られなかった)。

表出タスクで marked な方で誤りが多かったというのは、言語処理の負荷が高いために数や性の一致ができずに unmarked(デフォルト)の形を使ってしまうことがあったと説明することができます。英語の3単現 -s に置き換えてみれば、-s を付けるべき(marked な)ところで付けそこねてしまう(つまり unmarked な単数形を使ってしまう)といった感じになり、これは MSIH の主張とほぼ一致する見解と言えるし、表出時の誤りを分析した他の研究の結果とも一致します。一方で、文理解タスクでも同じように誤りが見られたため、MSIH の予測とはことなるということが言えます。それでは逆に IRH が正しいかといえば、T(ense) や AGR(eement) といった機能範疇(functional categories)が第二言語学習者の知識から抜け落ちているならば見られるはずの、格付与や語順の誤りが見られないことが先行研究で明らかになっているためそうも言えません。

McCarthy の結論は、morphological variability の原因は何らかの知識の欠如にあるものの、統語処理にも関わる機能範疇の知識の問題ではなく、形態素の素性に関する知識の欠如が原因だろうという感じ。これは、僕が考えているのと似ているかも。日本人学習者の英語の3単現の誤りは、AGR という機能範疇が欠如しているのではなくて、その中の素性のうち、人称(person)ではなく数(number)の素性だけが欠如しているのではないかという可能性を追っていますが、一部の素性の知識が欠如しているという意味では近そう。

以下コメントです。まずは性について。数や人称と違って、性というのは一つ一つの名詞に付随するものであり、学習者は語彙(名詞)を覚える際に性についてもセットで覚えないといけません。そのため、性の一致という現象は、数や人称の一致よりも学習者の語彙の知識によるブレを大きく受けそうです。McCarthy は実験に使った個々の名詞がどちらの性を取るかについて被験者に調査をしていますが、Una manzana. (An-FEM apple.) と(この場合はリンゴが女性名詞であるということを)1回正しく言えたからといって、その被験者の中で「リンゴ = 女性名詞」という知識がきちんと内在化されているとは必ずしも言えないのではないでしょうか。この研究では、数の一致に比べて性の一致の方が誤りが多かったわけですが、もしかしたらそれは語彙知識の不安定さによる影響があったからかもしれないなと思ったわけです。性という素性の知識の問題なのか、個々の語彙項目に対する性の割り振りの知識の問題なのか、何らかの形で調べた方がよいかもしれません。

次に気になったのが明示的知識の関わり。文理解のタスクでは、数と性の屈折情報を持った接語に注目し、たとえば「男性で単数だ」とか「女性で複数だ」といった情報を手掛かりに性と数の一致した絵を選ぶという形を取っています。はたしてこの実験方法は、一般的な文理解(comprehension)であると言えるでしょうか。もし被験者が数や性の一致に関する明示的知識を持っていれば(授業で習うんじゃないでしょうか)、実験の中でその知識をフル稼働させてしまうでしょう。形態素の規則というのは、明示的知識としては比較的簡単なので、明示的知識を活性できるタスクでは正答率が上がるはずです。たとえば英語の3単現の場合、文法テストで “He (a) like (b) likes apples.” のうち (a) (b) のどちらかを選べと言われれば、ちょっとでも学校で習っていれば迷いなく (b) を選べると思いますが、実際に英語を書いたり話したりするときに -s を付けそこねるなんて日常茶飯事ですよね。形態素の知識に関する研究を行うときには、明示的知識の影響を考慮しないといけません。

最後は commission errors (過剰使用)の話。MSIH の主張に見られるように、形態素の誤りの多くは、付けそこない(omission errors)であることが知られています。McCarthy の研究をふまえれば、単に付けそこなうだけでなく、marked な形を使うべきところで unmarked な(デフォルトの)形を使ってしまうものも含めて omission errors と呼びましょう。その逆のパターンが commission errors です。これは形態素を付けてはいけないときに付けてしまう誤りであり、unmarked な形を使うべきところでわざわざ marked な形を使ってしまう誤りも含めましょう。MSIH を支持する先行研究も McCarthy の研究も、omission errors が誤りの中心で commission errors はほとんど見られないという主張をしますが、必ずしもそうではないのです。先行研究についてはSundquist (2005) のレビューでも書いたとおり、数は少ない(誤用率で 5% 程度)ながらも commission errors がどの研究にも見られます。本研究でも、たとえば接語の表出タスクの結果では、intermediate グループの場合女性形の一致の誤り(omission errors)が約 30% であるのに対して男性形の一致の誤り(commission errors)は約 5% あります。5% とはいえ、あえてデフォルト(unmarked)ではない形を使っているということにも少し注意を向けた方がよいのではと思いました。

一通り書いてから読み直してみて、うまいまとめ方じゃなかったなと反省。シンプルに説明するというのはなかなか難しいです。

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