Wednesday, November 17, 2004
Prévost & White (2000)
Prévost, P., & White, L. (2000). Missing Surface Inflection or Impairment in second language acquisition? Evidence from tense and agreement. Second Language Research, 16, 103-133.
はじめにおことわり。今回読んだ論文は、いわゆる生成文法系(UG 系)のパラダイムに乗った論理展開をしています。僕は生成文法をはじめ、言語習得に関わる主な理論をハワイ大で習い、その結果専門用語の大半を英語でしか知りません。たまにうろ覚えしている日本語もありますが、以下の文章で英語が多く混じったり、読みにくかったりしたらごめんなさい。
これまで紹介した論文とはちょっと離れたものを読みました(とはいっても遠くで関連してますが)。本論文は、L2 学習者が動詞の屈折形(tense と agreement)を正しく使えない現象を取り上げ、それがどのような原因で起きるのかを2つの仮説に焦点を当てて調査しています。
まず最初に、NNSs が動詞の屈折形の正しい使用に困難を覚えてるのは一般に知られている現象です。例えば、英語の3人称単数で現在形の動詞に付く -s を常に正しく使うのは、かなり上級の日本人学習者であっても難しいでしょう。同様に、過去のことを話しているはずなのに動詞に -ed が付かず、現在形(というか、この論文の主張に従えば原形、不定形)を使ってる例は、一教員としてもよく見かけます。問題なのは、L2 習得では、どうして母語と違って屈折形の正しい使用ができるようにならないのかという点ですが、これについては次の2つの仮説に言及しています。
1つは Impaired Representation Hypothesis (IRH)。これは、functional categories, feature もしくは feature strength のどれかが L2 学習者の知識から欠如しているため、屈折形の使用がランダムになってしまうという考えです。極端な言い方をすれば、Universal Grammar (UG) が L2 では機能していない(Meisel, 1991; 1997)とも言え、L2 学習者はかなり根本的なレベルで母語話者とは言語知識が異なるという主張です。
もう1つが Missing Surface Inflection Hypothesis (MSIH)。こちらの主張は、functional categories 等の抽象的言語知識については L2 学習者も持っているものの、定形(finite)な動詞を使わなければならないところで、どの屈折形が finite かという表面的なレベルでのマッピングに問題があるとする考え方。噛み砕いて言うと、例えば英語で主語が he で時制が現在の文を発話しようとするとき、3人称単数形の現在だということまでは認識できるのですが、それが言語上 -s という形で表されるんだというところの処理が完璧でなく、従って “He plays tennis evey day.” が “He play tennis every day.” になってしまうという考え方です。
この論文では、この2つの仮説によって導き出される予測が異なる点に焦点を当てて、学習者データを分析することでどちらの予測が正しいかを調査しています。MSIH によれば、問題なのは定形動詞が来る位置にきちんとした屈折ができない点であり、従って学習者の犯す誤りの(ほぼ)すべては、屈折しなければならないのに不定形の動詞を使うパターンであり、逆に不定形を使うべき箇所(英語では to の後とか、助動詞の後など)で屈折された定形の動詞を使う誤りは(ほぼ)ないと予測できます。これに対して IRH ではこのような誤りの偏り(方向性)に関して特に具体的な予測はなく、従ってどちらのタイプの誤りも見られると予想されます。
本論文での調査対象は L2 フランス語学習者2名とドイツ語学習者2名。他の先行研究で収集されたインタビューデータを再分析する形で行われています。ドイツ語、フランス語の分析から始まってかなり細かいデータの記述があるのですが、結論を言ってしまえば4人の調査対象者が発した動詞の屈折に関する誤りの大半は、本来定形に屈折させていなければならないところに不定形を使ったものであり、その逆に不定形を使うべきところに定形を使った誤りはほとんど見られませんでした。というわけで IRH ではなく MSIH の方が支持されたことになります。
理論的背景についての僕の知識がちょっとあやふやなので、理解が間違ってるところもあるかもしれないし、従って批評をするほどの自信もありません。ハワイにいたころに Bonnie Schwartz のセミナーで関連した研究(Optional Infinitive とか Root Infinitive 関連)を結構読んだのですが...理論的なことの復習をしなければいけないなとちょっと反省させられました。
それともう1点、こういう枠組みでは規則形、不規則形の屈折をどう扱ってるのかなと思いました。

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