Sundquist (2005)
Sundquist, J. D. (2005). The mapping problem and missing surface inflection in Turkish-German interlanguage. In L. Dekydtsoptter, R. A. Sprouse, & A. Liljestrand (eds.), Proceedings of the 7th Generative Approaches to Second Languaeg Acqusition Conference (GASLA 2004), pp. 238-250. Somervilel, MA: Cascadilla Proceedings Project.
L2 学習者に多く見られる屈折形態素の誤りについて、その原因がどこにあるかを探る研究。90年代からずっと続いている Impaired Representation Hypothesis (IRH) と Missing Surface Inflection Hypothesis (MSIH) のどちらが正しいのかというのがテーマです(このへんについては、ずっと前に書いたこちらが参考になるかも)。
調査対象はトルコ語母語話者でドイツに移住した Ilhami という男性。移民を対象にした大規模な言語習得研究で有名な ESF プロジェクトのデータを再分析しています。
まずはトルコ語とドイツ語の動詞の屈折について。トルコ語は日本語と同じ SOV の語順ですが、動詞の屈折は rich です。下の例のように、文末の動詞には人称と数を表す形態素(1人称単数なのでここでは -im)が付きます。
Ben bu makale + yi yarin bitir + eceg + im
I this article + acc + tomorrow finish + fut +1sg
‘I will finish this article tomorrow’
また、主節と従属節では異なる形態素が使われるそうです(たとえば1人称複数の場合、主節では -sin、従属節では – (i)miz)。このことは、このノートでは紹介しませんが、論文後半で L1 の影響による誤りの説明に使われます。
ドイツ語も morphologically rich な言語ですが、トルコ語のように主節と従属節で形態素が異なるといったことはありません。下の例のように、主節と従属節の両方で動詞は同じ形です(ただしドイツ語には Verb Second (V2) という規則があるので、主節と従属節では動詞の位置が異なります)。
Fritz schreibt heute den Brief.
Fritz write + 3sg today the letter
‘Fritz is writing the letter today.’
… das Fritz heute den Brief schreibt
… that Fritz today the letter write + 3sg
‘that Fritz is writing the letter today’
以上を踏まえて、Ilhami の発話データを分析しています。メインとなるデータは、定形(finite)動詞が使われるべき場所と不定形(non-finite)動詞が使われるべき場所での実際の動詞使用の集計です。定形動詞を使うところ(いわゆる SVO や SOV の V の部分)では、不定形が650例中68例(10.5%)見られました。これに対して、不定形を使うべきところ(助動詞の後等)では264例中定形の使用(つまり屈折形態素の過剰使用)が14例見られました(5.3%)。Sundquist はこれをもって “although Ilhami continues to make errors in verbal inflection by inserting infinitival forms in finite contexts, he makes only a handful of errors in the opposite direction” (p. 242) としています。これは、先ほど紹介した Prevost & White (2000) の主張とも重なり、MSIH が有利とする立場です。
ここで引っかかるのが、何をもって “only a handful of errors” と言えるのかとういこと。Sundquist はχ2乗検定をかけて、10.5% は 5.3% と比べて優位に比率が違うという話の持っていき方をしていますが、これはやり方として正しくないと思います。MSIH の主張が正しければ、不定形を使うべきところで定形を使う(つまり動詞を屈折させる)ことは理論上はないはずなので、問題にすべきは 5.3% が実質ゼロであると言えるかどうかという点のはずです。動詞を屈折させるべきところで、10回に1回(10%)の割合で屈折し損ねることエラーである としながら、動詞を屈折させてはいけないところで20回に1回(5%)の割合で屈折させてしまうことをほとんど無視するのはどうも納得がいかないわけです。
MSIH の主張する mapping problem では、動詞を屈折させる(形態素を付ける)ときにつけ損ねてしまうことは説明できますが、逆に屈折させるべきでないときに屈折させてしまうという現象は mapping problem では説明できないわけです。Sundquist の研究のほかにも、White (2001) や Ionin & Wexler (2002) でもやはり4~5%の割合で屈折形態素の過剰使用が見られますが(この辺は僕が2年前にやったこちらの研究を参照。口頭発表時の PDF はこちら)、この5%前後の過剰使用を「ゼロと変わらない」と言い切ってしまうことに僕はどうしても抵抗を感じるわけです。
僕は今も日本人英語学習者の動詞の屈折(特に3人称単数の -s の使用)の研究していますが、上記の過剰使用に着目し、どうして屈折すべきでない時に動詞を屈折させるのか、その原因を探ろうとしています。そういうこともあって、5%前後の過剰使用をなかったことにしようとする研究には一言言いたくなってしまうわけです。
本研究、実は論文の後半でもう少し詳しいデータの分析を行っていますが、上記のポイントとは話が逸れるので割愛します。
