Friday, February 20, 2009
White (2007)
White, L. (2007). Some puzzling features of L2 features. In J. M. Liceras, H. Zoble, & H. Goodluck (Eds.), The role of formal features in second language acquisition (pp. 301-326). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum.
2週間ぶりの更新になります。本来なら昨日更新する予定でしたが、急な仕事がいくつか入ったため一日遅れました。
UG ベースの SLA 研究者の中では一番名の知れている Lydia White による論文です。ジャーナルではなく所謂 edited volume に収録された論文。White の文章は、論文であれ書籍であれ、そして講演であれ、ストレートにわかりやすく書かれているので読むのが楽しいです。
このブログでも度々紹介している morphological variability について、それを説明しようとする3つの仮説を概観し、そのどれが正しいのかを2つの実験によって明らかにしようとした論文です。扱われている3つの仮説というのも、このブログで何度も出ている Representational Deficit Hypothesis (の1つである Failed Functional Features Hypothesis: FFFH)、Missing Surface Inflection Hypothesis (MSIH)、そしてProsodic Transfer Hypothesis (PTH) です。個々の仮説については、それぞれのリンクをクリックしてもらうと、これまでの投稿のうち関係するものを読むことができます。L2 学習者の多くが形態素使用において母語話者レベルの正確さを身に付けることができず、形態素を正しく使えたり使えなかったりする現象(morphological variability)につて、上記3つの仮説はそれぞれ異なる説明を試みています。簡単に言うと、FFFH は形態素の関わっている機能範疇(functional categories)に関する知識が L2 学習者(の interlanguage)から欠落していると考えており、それに対して MSIH と PTH は機能範疇の知識の欠落はないと主張しています。知識があるのになぜ形態素を正しく使えないのかについて、MSIH は言語処理上の問題(L2 で話すときに言語処理の負荷がかかるため、形態素を付け忘れることがある)とし、PTH は母語にないプロソディ構造の場合正しく発音できないために形態素が欠落してしまうとしています。
White は、この3つの仮説から、それぞれどのような予測が導き出されるかを検討しています。対象としているのは L2 としての英語。被験者は中国語(北京語: Mandarin)とフランス語母語話者のグループ(と統制群としての英語母語話者グループ)です。それぞれの仮説について簡単にまとめると次の通り:
FFFH は母語の影響があると予測します。具体的には、母語に存在しない機能範疇は L2 を学習しても身につかないと考えられます。たとえば中国語には時制(Tense)や一致(Agreement)がないため、英語の動詞の屈折に関する(暗示的)知識を持てないことになります。他にも、数の概念がないため、名詞の複数形に関わる知識(+/- plural)欠落し、冠詞がないため +/- definite の知識もないことになります。一方、フランス語には時制、一致、(複)数、冠詞の全てが存在するため、中国語話者と比べてフランス語を母語をする英語学習者はより正確に上記の形態素を使うことができると予測できます。
MSIH はFFFH とは異なり中国語を母語とする英語学習者であっても上記の知識はずべて獲得可能であるとしています。つまり、フランス語母語話者と中国語母語話者の間に違いはないと予測します。さらに、言語処理の負荷が形態素の欠落を引き起こすと考えているため、理解タスクよりも表出タスクの方が欠落が多いはずだとも言えます(が、この点について White 自身はクエスチョンマークを付けているのがちょっとズルイ気が...)。
PTH は、まず肝心なのが音韻体系に関わる仮説のため、表出タスクの中でも特に発話タスクで困難が生じ、それ以外のタスクでは問題は起こらないはずだと予測できます。具体的には、過去形 -ed と一致&複数の-s については、中国語とフランス語の両グループとも困難になると予想され、冠詞については中国語話者グループのみ困難であると予想しています。さらに、bound mophology (-ed や -s のように、別の語にくっついて形成される形態素)と比べると free morphology (冠詞や copula be のように一語として独立した形態素)は音韻的に問題が生じないはずだと予測します。
以上のようにそれぞれ異なる予測が導き出されたため、それを検証するための実験を行っています。使用したのは文法性判断タスク(grammaticality judgment task: GJT)と絵を見て説明する表出タスク(elicited production task)。後者はまあ置いといて、GJT を理解タスクとして用いることについて僕は大いに疑問を感じます。White 自身もところどころで “a potential disadvantage is that … judgments do not reflect their unconscious knowledge of the L2″ (p. 313) とか “[the GJT task] was too metalinguistic, tapping learned classroom knowledge rather than unconscious representations” (p. 318) と指摘していますが、だったらなぜ GJT を使うのでしょう。実際に実験に使われた内容をちょっと見てみましょう。
a. Last winter, my brother play hockey every weekend.
b. Last winter, my brother played hockey every weekend.
被験者は上記の2つの文を見て、どちらが正しいか(または両方正しいか両方正しくないか)を答えます。このことが、被験者の Tense に関する暗示的知識を反映しているとは僕には到底思えないわけです。UG ベースの SLA 研究者が GJT を安易に使うことはよく批判の対象になりますが、それでも結構使われるんですよね。不思議です。
GJT の結果ですが、当たり前と言えば当たり前で、中国語話者グループもフランス語話者グループも、かなり高い正答率を示します。これは FFFH には不利な結果なわけですが、White 自身は MSIH や PTH を主張する研究者の一人なわけですから、この結果をもとに FFFH を批判するのはちょっと不公平でしょう。というわけで表出タスクの結果に移ります。
結論から言うと、FFFH も MSIH も PTH も、実験結果を全て上手に説明はできません。FFFH は比較的不利であるという扱いですが、GJT の結果を差し引いてもこれは仕方がないかもしれません。たとえば、一致と冠詞に関しては予測通りフランス語話者の成績(60%)の方が中国語話者(30%)より良かったのですが、時制に関してはどちらのグループも同じぐらいの成績(約50%)でした。また、母語にも一致のあるフランス語話者の成績が 60% 程度と低い点についても FFFH ではうまく説明できないと White は言っています。
MSIH は実験結果をそこそこうまく説明することができますが、表出タスクで free morphemes の成績が bound morphemes の成績よりずっと良いことに関して何も言えません(同じ機能範疇が関わる限り、どちらも言語処理的には同じ負荷と考えられるから)。
最後に PTH ですが、表出タスクより GJT の方が成績が高いことは予測通りと言えます(が、上述のとおり明示的知識が絡んでいると考えられるため、僕的には支持できません)。また、MSIH では説明できない free/bound morphemes の違いについてはきちんと予測できています。PTH については、表出タスクとしてスピーキングとライティングの両方を行い、スピーキングのみに困難が見られることを発見する方がより主張に近い研究方法だと思いますが、今回はそうなっていないので何かを結論づけるのは難しいかもしれません。
以上批評も含めて簡単にまとめましたが、僕としてはやはり機能範疇の知識に関する研究で GJT を使うことには納得がいきません。かといって他にどのようなタスクで表出させずに知識を測定するのかは確かに難しいところではあります。たとえば sentence matching task を使った反応時間測定とか、ERP 等を使った脳血流測定等が考えられますが、前者については sentemnce matching task が狙った機能範疇の知識にきちんと働きかけているかがはっきりしないし、後者はそもそも測定機材があまり普及していないこと(うちの大学には光トポグラフィを使った測定装置があった!)と、測定方法自体がまだきちんと確立できていないように思えるので本当の意味での実用化にはもう少し時間がかかるでしょう。
ただ、個々の仮説をきちんと整理し、それぞれが異なる予測をする現象を見つけ出し、それについて調査するというこの論文の手法は正統派と言えます。論理的にも一番ストレートだし、実験結果が何を意味するのかの考察も(良い意味で)簡潔になります。研究手法としてはぜひ見習うべき論文だと思いました。

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