Friday, March 20, 2009
White (2008)
White, L. (2008). Different? Yes. Fundamentally? No. Definiteness effects in the L2 English of Mandarin speakers. In R. Slabakova, J. Rothman, P. Kempchinsky, & E. Gavruseva (Eds.), Proceedings of the 9th Generative Approaches to Second Language Acquisition Conference (GASLA 2007), (pp. 251-261). Somerville, MA: Cascadilla Proceedings Project.
冠詞の習得について、僕は今までいろいろな理由から避けてきたんですが、今年に入って冠詞習得の論文を何本か読み、自分でも研究してみてもいいかなと思うぐらいになってきました。英語を L2 として使用する自分が一番「難しい」と感じているのが冠詞であり、その困難さが一体どこから来るのかについて詳しく知りたいという気持ちもあります。
今回紹介する Lydia White の研究は、冠詞の習得のうち、特に definiteness effect (DE) と呼ばれる現象に焦点を当てたものです。英語の there 構文(e.g., There is an electric wine cellar in my apartment.)の DP (例では “an electric wine cellar”)の determiner(限定詞)には制限があるという話なんですが、簡単に言えば定冠詞 the や代名詞、固有名詞、それに指示詞といった「強い」限定詞 を取ることができないという現象です。上記の例を使うと、”*There is the wine cellar in my apartment.” という文が正しくないということになります(いくつかの規則的な例外もあります)。文法的な冠詞のない中国語を母語とする学習者が、英語の DE について正しい知識を獲得できるかどうかについて、White は表出タスクを用いて調査しています。
カナダ在住の15人の中国語母語話者に対して、63枚の絵を見ながらストーリーを英語で発話させるタスクを使って表出データを収集しました。そのうち、加算名詞の単数形が用いられ、なおかつ限定詞 と名詞の間に形容詞が挟まっていないものを分析対象としました。加算名詞の単数形を使ったのは、不可算名詞や複数形の場合、冠詞がなくても文法的に問題がないため、限定詞が空な場合にそれが誤りかどうか判断できないためです。
まずは予備的情報として、”low to high interemediate” とされる被験者たちの冠詞使用の正確さですが、40%から70%でした。このことから、被験者は母語話者とは明らかに異なったパフォーマンスをしていることがわかります。それで、肝心の there 構文の方はというと、一人平均10程度の表出がありました(合計で149)。この149のうち、限定詞に非文法的なもの(つまり DE に反するもの)は定冠詞を用いた3例のみで、それ以外の146の発話はすべて DE に違反しない DP が使われていました。
White は、中国語を母語とする英語学習者が DE について(少なくとも表出では)かなり正確な知識を持っていることについて、いくつかの解釈が可能であるとしています。ひとつは、UG が機能しているとする可能性ですが、その他に2つの可能性も列記しています。そのうち1つはインプットの情報から十分にこの知識は習得可能であるという考え方。つまりインプット中の there 構文では、DP に定冠詞が使われる例はかなり少ないため、DP には不定冠詞等の「弱い」限定詞が来なければいけないということを知るという可能性です。ただし、これについて White は、”There is the … ” という表現も文法的に可能である場合があり(詳しくは省略)、大規模コーパス(BNC)を検索した結果、”There is the … ” というパターンは “There is a … ” の10分の1ぐらいの頻度で観察されるとのことです。このようなインプットの情報から、学習者が DE の知識をきちんと獲得できるかは明確でないと White は考えているようです。
もう1つは、there 構文では不定冠詞を使うということを明示的知識として持っているという可能性です。Boping Yuan (p.c.) は、中国ではこれを学校で教えると言っているようで、このことである程度の説明がつくのかもしれません。
White 自身の結論は、この研究からは上記のどの可能性が正しいのかまでの判断はできないということです。僕の感想としては、そもそも冠詞について正しい知識を持っていない学習者が、その冠詞の使用に関するさらに限定的な規則について正しい規則を持っているというのは考えにくいなということになります。直感的には、上記のインプットベースの説明が一番しっくりきますし、there 構文で DP に定冠詞を用いないことイコール DE の知識を持っていることにも必ずしもならないとも言えます。たとえば、there 構文ではなんとなく the が来ちゃいけなさそうだなぁという程度のぼんやりした知識(というか印象というか何か)があれば、there 構文の表出時に(あえて)the を付けることもないだろうとも言えますし、今回観察された現象はもしかしたらその程度のことなのではとも思います。
この辺についてもう少しはっきりさせるには、表出ではなく知識に焦点を当てる必要があるでしょう。具体的には、there 構文の DP にいろいろなタイプのものを用意し、その文法性を判断してもらうタスクを使うのも良いでしょう。もっともこれには、被験者が there 構文の DP に関する明示的知識(上記 Yuan の話参照)を持っていないという前提での話ですが。はたして日本人英語学習者は、これについて学校で習うのでしょうか。手元に参考になる資料がありませんが、少なくとも誰もが知っている(もしくは覚えている)といったメジャーな規則ではないように思います。また、仮に明示的知識を持っていたとしても、それはおそらく「there 構文では名詞に定冠詞を付けない」といった程度のものだろうと予想されるので、冠詞以外の限定詞(「強い」ものでは all, most, every, each, this, that, my, his, her などなどで、「弱い」ものでは some, many, few, several, one, two, three などなど)の場合についての文法性も確認することで、正確な DE の規則を持っているかどうかは調査できそうです。
話は変わりますが、Lydia White がすごいなぁと思う理由の一つに、とても高い生産性があります。今回紹介した論文のような比較的小規模のものも含めれば、毎年コンスタントに何本かの実証研究を出版しているようですが(しかも単著のものも結構ある)、ものすごく忙しい人であろうと思うのに、その行動力はすごいです。多くのグラントをもらっているし、多くの大学院生を抱えているということもありますが(この論文の謝辞を見ると、リサーチ・アシスタントだけで13人の名が、そしてグラント名も2つが挙げられています)、それにしても考えたことをきちんと実証しようとするエネルギーは尊敬ものです。

卒業
なごり雪というにはあまりに寒々とした今日の札幌の天気でした。昨日は気温も高く、せっかくの卒業式に雪が降らなくてよかったなぁと思いましたが、今日は一日降ったり止んだり。時…
Posted at 11:41pm, March 20, 2009 by ひとりごと